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スペシャルセミナー

第10回 スペシャルセミナーレポート

「香りの脳内伝導・香りと脳内環境」

~脳科学者、天野惠市氏が香水による脳トレを提唱~

日本フレグランス協会では、2018年10月17日に第10回スペシャルセミナーを開催しました。
講師に東京脳神経センター脳神経外科医、脳科学者の天野惠市氏を招き、「香りの脳内伝導・香りと脳内環境」をテーマに語っていただきました。

第10回スペシャルセミナー
嗅覚と脳と認知症

今、嗅覚と脳の関係が脚光を浴びています。認知症は日本に400万人いますが、初期の症状として嗅覚の衰えがあります。

香りの化学物質は脳の側頭葉にある扁桃核に運ばれ、ここが嗅覚の終着駅になります。そのすぐ後ろには記憶の中枢として知られる海馬があり、香りが記憶に残るのはこのためだといわれています。海馬とリンクした香りは一生消えません。中には悲しい、つらい記憶もありますが、花の香りや相性のいい人とのめぐり会いなど、いい記憶や経験を重ねていくことで薄めることができます。

海馬がある大脳辺縁系は脳が進化する過程で最も古くから存在する系統です。つまり、嗅覚は脳の1番古い場所とリンクしていることになります。ここに重要な意味があります。匂いを感じないと野生動物は餌を捕ることができません。異性にも巡り会えないので子孫を残すこともできなくなります。人間の相性を決めるのは香り、体臭の好き嫌いで決まります。言い換えれば、生存の原点になるのが嗅覚ということになります。

女性は父親の体臭に近い男性を自分のパートナーに選ぶといわれています。最初に出会う男性の香りとして記憶に残っているからです。男性には母親の母乳の香りが重要であり、これらの香りの記憶が全て扁桃核に刻まれています。香りは長持ちしないし、次第に慣れてしまいますが、香水ならつけなおすことができます。あまり周囲の反応を気にせず、自分の香りを楽しんでいただきたいです。全員に受け入れられる香りはありません。自分の近い人に受け入れてもらえれば十分です。香りは人の心をつかむことができるのです。

実は認知症の脳が最初に異常をきたすのが扁桃核です。認知症の初期段階で匂いがわからなるのはこのためです。

バラの香り

私は軽井沢の別荘で108株のバラを育てています。香りを空気や風のような感覚で捉える人が多いようですが、嗅覚では匂いの物質が粘膜から伝わってきます。バラの香りを構成する化学物質は全部で14種類ありますが、うち2つはスズラン(ミュゲ)の香りで、ニナロールとファルネソールです。

フランスではメーデーに必ずスズランを飾ります。メーデーは、5月1日にパリで第1回世界労働運動が行われたことに起因しますが、その時にシンボルとして飾られた花がスズランでした。スズランが庶民の花だったからです。それ以前は赤いバラを胸に飾って行進していたこともあったそうです。

ファッションデザイナー、クリスチャン・ディオールは独立後、最初の作品を発表する際に、その服に似合う香水を選んで一緒に提案しました。ファッションは香りとともにあるべきという考えを持っていたからです。実はクリスチャン・ディオールという名前の赤いバラもあるそうです。

バラは1867年を境に、それ以前からあったものをオールドローズ、それ以降にできた種類をモダンローズと言います。オールドローズにはハイブリッドパーペチュアルとティーローズの2系統があります。ハイブリッドパーペチュアルは1816年に誕生し、そこから千種類ほどのオールドローズが作られました。花が大きく、色も豊富で寒さに強い種類ですが、花はたった一度しか咲きません。これに対し、中国原産で紅茶のような香りがするティーローズは、何度も咲きますが色が貧弱です。

この2つを掛け合わせたのがハイブリッドティーです。これがモダンローズの始まりであり、その第1号として「ラ・フランス」が1867年に発売されました。鮮やかな大輪の花が何度も咲きます。バラは交配ができるので、周りと調和する才能があるといわれています。ただし、香りの交配は予測がつきません。香りを抽出するバラはブルガリアやトルコで栽培されているダマスクローズで、花びらを蒸してローズオイルをつくります。しかしローズオイルは非常に高価です。香水のレシピは企業秘密になっており、その謎めいたところが香水の魅力でもあります。

東洋の花でバラに匹敵するのはボタンです。独特の香りがしますが、バラの香りほど奥行きはありません。私は自宅の庭に植えたボタンが開花した時、子供時代に、屋敷の塀の向こう側から漂ってきた姿が見えない花の香りだと感じました。これこそが、脳に残っている匂いの記憶です。香りに物忘れはないのです。

良い香りで脳トレーニング

香りは脳に刺激をもたらす最も有効な手段と言えます。香りをいくつか用意し、その人の好きな香りを吸うことが脳のトレーニングになります。香りは脳の原点的な喜怒哀楽を司るところに作用するので、脳のトレーニングとしてこれ以上良いものはないのです。ここで、認知症の診断と治療に、良い香りを使ったら良い、という発想に至りました。
バラの花の香りをトレーニングに使うというのはどうでしょうか。実はフラワーショップに売られているバラの切り花は、香りがほとんど残っていません。バラは切った直後に一番香りがしますが、その後は香りが揮発してしまいます。
そこで脚光を浴びそうなのが香水です。香水を使って扁桃核を活性化させればよいのです。

第10回スペシャルセミナー

香水は脳を元気にします。香りを吸いすぎておかしくなったという話はきいたことがありません。香りの仕事をしている方に申し上げたいのは、認知症予防につながる脳の活性化というに香りが有効であるとすれば、香りはある年齢を超えたら生活必需品になりうることを意識してほしいと思います。日本でも香水が売れるような新しい切り口になるのではないかと考えています。

天野惠市(あまのけいいち)氏 プロフィール

東京大学医学部卒。東大医学部脳神経外科入局後、米国エール大学ハートフォード病院脳神経外科、エール大学医学部脳神経外科フェロー、カナダ・マックギル大学において臨床脳神経外科などの研究に従事。
帰国後、東京女子医科大助教授等を経て、現在、東京脳神経センター、水戸中央病院で脳神経外科医として治療に当たる。

【出演・著書】
・NHK「今日の健康」
・最新著書 ボケたくなければバラの香りをかぎなさい 脳を刺激する生活習慣のススメ(ワニブックス)
・薔薇と脳/脳の病気大解剖、あなたを変える脳の世界(銀座廣済堂)/そこが知りたい脳の病気(新潮文庫)/脳外科医が教えるボケ予防15か条(新潮社)/ボケずに長生きできる脳のはなし(新潮文庫)ほか