フレグランスフォーラム

香料を知る

2014年

lilacIMG_0681香料の世界では、バラ、ジャスミン、スズランと並んで四大フローラルと呼ばれるほど、調香によく利用される花香の代表。

イラン原産の、もくせい科の小高木で西アジア一帯に自生し、中世欧州に持ち込まれた。春から初夏にかけて白、ピンク、紫などのきれいな色の香り高い花を咲かせ、公園や街路、庭を彩りよくし、さわやかに香るため、季節になるとライラック花祭りが開かれるなど世界各地で親しまれている。

Syringa vulgaris L.で、和名はムラサキハシドイ、英語でライラック(Lilac)、フランス語でリラ(Lilas)という。宝塚歌劇団の「すみれの花咲く頃」の元歌は、フランスの歌「白いリラの花咲く頃」。花の溶剤抽出品の匂いは花香に程遠く、液化ブタン抽出も試みられたが、合成香料を主体として調香されたベース香料のほうがはるかにライラックの花香に近く、供給、価格の面でも圧倒的に勝っていることから、香料メーカーはどこも自家製ベース香料を作り、調香に活用している。

フレグランス製品の創香に、ライラックの香りはしばしばモチーフになり、ベース香料はフローラル調の重要な構成要素として用いられる。

 

解説

にほひすと&かおりすと

吉原 正明

2014年

バイオレットギリシャ・ローマの時代、スミレの花で作った冠をかぶる習慣があるなど、スミレの仲間は欧州では古くから親しまれてきたが、欧州南部に自生するニオイスミレ(学名Viola odorata L.)の冠はヴィーナスの象徴。その芳香により、入浴剤にしたりして愛でられ、栽培品が外に広がり、欧州全体に分布が広がった。この花を溶剤抽出して、花精油・バイオレットフラワー アブソリュート(violet flower absolute)が得られる。また、ニオイスミレの新鮮な葉を溶剤抽出して、バイオレットリーフ アブソリュート(violet leaf absolute)が得られる。

 

花精油は甘いフローラルな香りで、エタノールなどで薄めるとバイオレットの花を想わせる芳香を発する。フローラルブーケ調のフレグランス製品用香料の調製に昔はよく用いられたというが、花摘みの手間がかかること、また、香気成分の研究過程でスミレの香りに似た香りを出す合成香料が発明され、安価で香気も強く、容易に供給できる合成香料が好んで用いられるようになり、南仏、イタリアでの香料用の栽培は途絶えた。一方、葉からの香料は強烈な青臭さを持ち、代表的なグリーンノートの天然香料の一つとして、エジプトで少量だが生産され、高級香料の調合に用いられる。

 

解説

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吉原 正明

2014年

じゃ香2IMG_0820-1動物性香料の代表で、英語でmuskという。

ヒマラヤの南から中国奥地、北はシベリアのバイカル湖あたりまで分布する数種のジャコウジカ(Moschus属)のオスの臍と生殖器の間にある香嚢(Musk Pods)に溜まる麝香腺分泌物。繁殖期に強い匂いを発散させてメスを誘引する。チベットから中国にかけて棲息するジャコウジカからのものが良質で、トンキン地方(ハノイを中心とするベトナム北部一帯)から輸出される麝香はTonkin Muskと呼ばれ、最高級とされてきた。乾燥して得られる黒い粒状物(musk grain)を薬用(興奮、強心などの薬理作用が強い)に供するほか、エタノールでチンキにして香料原料とし、高級フレグランス製品の香りを引き立たせ、持続させる。

昔はジャコウジカを殺し、切り取った香嚢を乾燥させたものが高値で取引されたが、血液凝固物などの混ぜ物もあった。1979年以後、絶滅危惧種としてワシントン条約で捕獲が禁止され、中国では飼育ジャコウジカの香嚢から1回に数十グラムの麝香を掻き出す方法がとられている。

合成のムスク香料が19世紀末から開発され、今では多種類が香水から日用品にいたるまで広範囲に用いられ、香りを生き生きさせ、持続させるのに役立っている。

 

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にほひすと&かおりすと 吉原 正明

2014年

アンバーグリスマッコウクジラ(抹香鯨)(学名 Physeter macrocephalus L.)の消化器内にできる不定形の蝋状の塊(結石)をアンバーグリス(ambregris)という。これを砕いてエタノールに浸漬し、数年間熟成させて作るアンバーグリス チンキ(ambregris tincture)や、それを濃縮して作るアンバーグリス レジノイド(ambergris resinoid)を動物性原料香料とし、高級フレグランス製品作りに用いる。

甘い、独特の芳香を発する。古典的なフレグランス、とくにオリエンタル調、シープル調には欠かせない原料香料で、少量で全体の香りを引き立たせ、長持ちさせる効果がある。異国の海岸で採れ、燃やすと良い香りがする塊であるとの共通点があったことから、欧州では、松脂の化石である琥珀(amber、ambre)と混同され、鯨の病的分泌塊は通常灰色であるため、これを灰色の琥珀(フランス語でambre +gris(灰色))と呼んだ。

昔はインド洋沿岸に漂着したもの、海上に浮遊するものを入手したが、商業捕鯨が禁止されるまでは、マッコウクジラ体内から取り出すことが多かった。中東地域では早くから強壮薬、媚薬、飲料などに用いられ、欧州でも嗜好飲料や菓子に用いられ、中国では龍涎香と呼び、香薬として重宝された。最近は、上質の合成香料が代替利用されている。

 

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にほひすと&かおりすと 吉原 正明 

2014年

乳香2o_11701-1英語でオリバナム(Olibanum)あるいはフランキンセンス(Flankincense)、フランス語でアンサン(Encens)という。

乳の滴りを想わせる透明感のある乳白から橙色の芳香樹脂で、かんらん科ボスウェリア属植物・乳香樹の樹皮に傷をつけて採取する。
利用の歴史は紀元前古代エジプトに溯り、神聖な薫香、霊薬として用いられ、紀元前10世紀ごろには、アラビア半島南部から西部を経て地中海岸へと繋がる交易ルート“乳香の道”(2000年に世界遺産登録)ができ、繁栄したが、キリスト教からイスラム教世界に代わるとともに廃れていった。今もキリスト教、ユダヤ教の儀式や祭りに焚かれる。イエーメン、オマーン、ベドウインの人たちは来客接待時に香を焚き、集いのあとに香炉で衣服に乳香を焚きしめる習慣がある。中東から東アフリカに生育するBoswellia carterii Birdw. の樹脂が最も一般的で、オマーン、イエーメン、ソマリアに生育するBoswellia sacra Flueck.からの樹脂が最上質。乳香の溶剤抽出品、水蒸気蒸留品はイスラム世界最高級香水の主原料として用いられるほか、オリエンタル調、シトラス調のフレグランス製品用に用いられる。

 

解説

にほひすと&かおりすと 吉原 正明