フレグランスフォーラム
香料を知る
2013年
くすのき科シナモン属の植物樹皮の内皮を乾燥させたロール状の芳香物で、肉桂と呼ばれる。利用の歴史は古く、4000年前のエジプト人はすでに知っており、ヘブライ人は聖なる注ぎ油作りに用いたという。
料理や菓子作りのほか、生薬、香料として利用される。
シナモン属はインドから中国にかけての南アジア一帯に育つが、スリランカ、ミャンマー、インド、インドネシアに育つtrue cinnamon(学名Cinnamomum verum J.Presl)の樹皮(bark)が香辛料として品質が高く、生産量も抜群のスリランカ産がとくに有名。長年、産地が秘密にされてきたが、16世紀始めにポルトガルの航海者がスリランカで見つけて以後、欧州列強の利権争奪の元となった。
今では、西インド諸島、ブラジル、マダガスカルなどでも生産されている。樹皮を水蒸気蒸留、ときには水蒸留してCeylon cinnamon bark oilを得る。甘く、スパイシーな香りは、フレーバー用途のほかに、オリエンタル調香水をはじめ、多くのフレグランス製品の特徴を演出している。中国産シナモンはカッシア(cassia)(学名C.aromaticum Nees)と呼ばれ、樹皮は桂皮と呼び、薬用される。樹皮、葉、枝を水蒸気蒸留してCassia oilを得る。
解説
にほひすと&かおりすと 吉原 正明
2013年
植物でも動物でもない、菌類と藻類の共生体であるサルオガセの仲間の地衣類(lichens)からも天然香料が製造される。
中央および南ヨーロッパの山間に生育するブナ科ナラ(楢)属の植物(oak tree)の樹皮、枝皮に着生する地衣類の一種・ツノマタゴケ(学名Evernia prunastri (L.)Arch.)は、オークモス(oakmoss)と呼ばれ、これを採取し、湿らせた後、溶剤抽出して、天然香料のオークモス アブソュート(oakmoss absolute)を得る。
地衣類はその姿が蘚苔類(moss)に似ていることから、混同されてモスと呼ばれている。日本では、さらにオーク(楢)がライブオーク(樫)と混同され、オークモスを樫に着く苔と誤訳されている。オークモスアブソリュートは、Mitsouko、Miss Dior、Eau Sauvageなどのシープル調フレグランスの基本的構成要素として不可欠な香料である。また、フランス、スペイン、モロッコなどに生育するマツ、エゾマツなどの針葉樹に着生する地衣類のトリーモス(tree moss)(シダーモス cedarmossともいう)(学名:Evernia furfuracea、Usnea barbata など)からもトリーモス(シダーモス)アブソリュート(treemoss absolute)が得られ、Contradiction、Paco r pour hommeなどのフレグランスや石鹸用の香料調製に汎用される。
解説
にほひすと&かおりすと 吉原 正明
2013年
扇子、仏像、数珠などの細工物やお香でなじみのある白檀(びゃくだん)は、びゃくだん科のSantalum album L. という常緑の樹木で、インドネシアの小スンダ列島原産。白檀の仲間はインド、マレー半島、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、ニューカレドニア、南太平洋諸島、ハワイから小笠原諸島まで十数種が分布するが、香気が最も優れるのはインド・マイソール州産白檀。英語でsandalwoodあるいはwhite sandalwood。焚かずとも神々しい芳香を発し、インドでは古くから宗教儀式に用いられ、仏教とともに中国へ、そして日本に伝来した。
樹齢30年以上の心材、根を水蒸気蒸留して、甘く、ソフト、マイルドな重いウッディ調の、官能的なバルサムようの香気をもつ精油を得、“L’air du temps”や“Samsara”など、多くの高級フレグランス製品用香料調香に用いられる。ニューカレドニア産の近似種からは水蒸気蒸留以外に溶剤抽出と精製によっても精油を得るという。
インドでは乱伐による古木の激減で政府が伐採を禁止している。主香成分のサンタロール類に化学構造も香気も類似した合成香料が次々と開発され、白檀の代替として、また、日用品向け香料にも広く利用されている。
解説
にほひすと&かおりすと 吉原 正明
2013年
梅雨の時期、雨上がりに何処からともなくクチナシ(英名:gardenia、学名:Gardenia jasmonoides Ellis)の甘い花香が強く匂ってくる。一重のほうが香りは強いようだが、夜露に濡れた八重咲きは純白のビロードのような花の姿と、そのフレッシュグリーンフローラルで、フルーティでファッティスウィート(乳製品のような脂っぽく甘い)な、強く迫ってくる香りは濃厚かつ妖艶である。
昔、マダガスカル、北米で、花の石油エーテルや液化ブタンによる溶剤抽出が試みられ、gardenia absoluteが少量製造されたが、収率が悪く高価であるため、ブタン抽出品(butaflor)に良く似た調合品(isobutadlor)が開発され、グリーンフローラルな香気で、またの名をガーデノールとも呼ばれる合成香料・スチラリル アセテートやミルキー、ファッティな香りのラクトン系合成香料をキー物質にしたガーデニア ベース(調合香料)が開発されて、天然香料は“今は昔”である。
花香が甘く華やかで好まれる故か、「Gardenia」と称するファインフレグランス製品は数多い。また、ガーデニアの香りが重要な香りの要素となっているファインフレグランスも多く、古典の名香「Crepe de Chine」や「L’air du temps」はスチラリル アセテートがキー物質となっている。グリーン、フローラル調の香り作りにはきわめて重要な物質である。
解説
にほひすと&かおりすと 吉原 正明
2013年
ヒノキ(英名:Japanese Cypress、学名:Chamaecyparis obtuse Sieb. et Zucc.)は 本州(福島県以南)、四国、九州、屋久島、台湾に分布する常緑針葉高木で、狂いが少なく、加工しやすく、水にも強く、芳香を放つため、用途は建築材、家具・建具材、舟材、浴槽材、俎板など、多岐にわたる。
社寺などの高級な木造建築には、ヒノキがよく用いられる。木の肌目が細かくて、特有の光沢があって美しい上、フレッシュでカンファー(樟脳)様の清々しさとおだやかなウッディ調のヒノキ特有の芳香は爽快で、多くの日本人を魅了する。伐採後1,000年位経っているものでも、削ると芳香を発するという。写真の黄色い粒は風雨に曝した古いヒノキ材から浸み出したヤニ(樹脂)で、ヒノキの香りを放つ。
幹材や根株のチップを水蒸気蒸留して得られるヒノキ精油は、戦前、浮遊選鉱用の気泡剤やテレピン油代りに用いられたが、今は石鹸や入浴剤用香料として用いられる。葉からは水蒸気蒸留でヒノキ葉精油が得られる。ヒノキ精油よりも軽く、グリーンでフレッシュな香りを持つ。
ヒノキチオールを含有するのは、台湾に自生する亜種・タイワンヒノキや、別種・タイワンベニヒで、抗菌作用が強く、精油含量も高いため、耐久性にすぐれるが、乱伐で資源が枯渇し、伐採が禁じられている。
法隆寺や薬師寺の塔、正倉院、伊勢神宮などの社寺建築に用いられるなど、古来、我が国の木造建築文化を支えてきたヒノキは、今、スギに次ぐ広い造林面積をもっている。この由緒ある豊かな芳香資源を活用した日本の香り、日本のファインフレグランス製品の世界への発信が待たれる。
解説
にほひすと&かおりすと 吉原 正明